鶏卵やレバーに含まれる食用油脂「アラキドン酸」が傷んだ脳機能の回復に効果があることを、金大大学院医学系研究科の山嶋哲盛助教授(再生脳外科学)らの研究グループが確認した。脳卒中や脳挫傷の後遺症で記憶力や注意力の低下に悩む患者が増える中、六カ月間の服用により記憶力が平均並みに改善した例もあった。七月の日本神経科学大会で発表する。
サントリー健康科学研究所との共同研究で、脳卒中や脳挫傷の後遺症、アルツハイマー病の患者ら二十五人にアラキドン酸を飲んでもらった。
このうち、二十年前の脳挫傷で物覚えが悪くなり仕事を辞めざるを得なかった
石川県内の男性(65)の場合、高次脳機能を評価するアーバンス神経心理テストで総合点が三十五点しかなかったが、アラキドン酸を服用して三カ月後に四十二点、六カ月後には平均値の五十点にまで回復した。
アラキドン酸は、脳卒中や脳挫傷の後遺症には効いた一方、アルツハイマー病では今のところ、症状が改善したといえるデータは出なかった。
医療の発達により、脳卒中や脳挫傷から生還して社会復帰する患者が増えているが、見た目は元気で言葉に不自由しなくても、電話の内容を覚えられなかったり、おっちょこちょいになったりするなど、記憶力や注意力が低下して社会に適応することが難しい事例も増えている。
これまで、理化学研究所などの研究で、アラキドン酸が神経細胞の伝達能力を高めたり、老齢ラットの
学習・記憶力を改善したりする作用が確認されているが、実際に人間が飲んで脳障害を回復する効果が明らかになったのは初めて。山嶋助教授は「研究ではアラキドン酸の効果だけを確かめるため、十年以上、脳機能が改善しなかった患者で調べたが、脳卒中や脳挫傷の直後から飲み続けることで回復が早く、後遺症を軽減できる可能性もある」としている。
高橋均・新潟大脳研究所長(脳神経病理学)
これまでアラキドン酸を飲んで脳障害に効いたという話はなかった。患者や家族に福音をもたらすものと考えられる。さらに大規模な臨床試験で効果を確かめる必要がある。
アラキドン酸(ARA)
魚介類や母乳、レバー、卵黄などに含まれる脂肪酸。よく知られるDHAやEPAと同じく、脳の働きに重要な役割を果たすとして注目されている。体内でリノール酸から合成できるが、高齢者や乳幼児は十分に合成できないため、直接摂取するのが望ましい。